山手に住むというのは
なかなかに風流なものである
鳥の声で目が覚め、山菜や紅葉など
季節の移ろいを肌で感じる
そんな優雅な日々を思う人も多いだろう
しかし、現実は
もう一つの“自然”とも共存する事になる
たとえば、ムカデである
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冬の間は平和だ
彼らは石の下あたりで大人しくしている
こちらの生活圏には現れない
ところが、春になると
「そろそろ出てもいいかな」と言うように
姿を見せ始める
でも、この時期のムカデはまだ動きが鈍い
こちらも心に余裕があるので
「お引き取りください」と対処出来る
問題は夏だ
夏のムカデは速い。とにかく速い
こちらが「えっ」と思った瞬間には
もういない。いや、いないと思ったら
足元まで来ていて、恐ろしさ倍増である
そのため、日常のあらゆる動作に
「確認」という工程が加わる事になる
まず、履物。靴を履く前には
中を覗く。軽く振る
これはもはや習慣だ
だが、それでも油断は禁物である
ある時、靴紐に手を伸ばした瞬間
「ん?」と違和感
よく見ると、それは靴紐ではなく
ムカデ
反射的に「ひぇー」と声が出て
放った靴が宙を飛ぶ
また、ある夏の日
短パンの素足に「サワサワ」と不穏な感触
恐る恐る視線を落とすと
ムカデが足を登ってきている
思わず「ピエー」と
声にならない声を上げた
さらに別の日。食器を洗おうと
何気なく洗いオケを掴んだ時だ
妙に乾いた生き物の感触に「ハッ」として
瞬間、洗いオケを放った
掴んだのはムカデだった
このように、山手にある我が家では
冬の間は平和だが、他の季節は
ムカデ様にドキドキさせられる
山手の暮らしは、風流とスリルが紙一重
今日もまた、靴を履く前の
「安全確認」から一日が始まる

