私は、剣道と居合道の有段者である
といっても、どちらも立派に「初段」だ
この「有段者である」という言い方には
ちょっとだけ見栄が含まれている
が、「初段止まり」という事実には
人生の妙も詰まっている気がしている
剣道を始めたのは社会人になってから
仕事でのストレス発散が理由だったかも
しかし、やってみると、のめり込んだ
稽古を重ねるごとに
自分の中の何かが整っていく感じがあった
そしてある時期
ちょっとした“錯覚”に出会う
相手のスキが見えた瞬間
考えるより先に体が動いている
まるで竹刀が自分の腕ではなく
「意思そのもの」になったような感覚
「あれ?もしかして自分、いけてる?」
人はこういう時、だいたい調子に乗る
私も例外ではなかった
もう少し続ければ二段、三段、いや
ひょっとすると師範クラスに……などと
ずいぶん遠くまで妄想していた
そんな、前途洋々な気がしていた冬の夜
事件は起きた
彼女と飲んだ帰り、二人一緒に
雪道をふらふらと歩いていた時の事
足元は滑るが、酔ってるし、何より楽しい
結果として、二人仲良く転んだ
青春映画なら、ここで笑い合うシーン
だが現実は違う
私はしっかりと足首を捻挫した
見事な転倒、一本 !
その後、治るまで剣道の稽古は、お休み
そして、「もう少し休むか」になり
「そのうち行こう」、「もういいか」に
気がつけば、竹刀は物置へ
あれほど感じていた「手ごたえ」も
いつの間にか記憶の中の出来事…
こうして私の剣道と居合道は
どちらも初段で終了しました
もしあの時、転ばなかったら
二段、三段と進んでいたかもしれない
でも、どっちにしろやめていたかも…
それは分からない
ただ一つ確かなのは
私の剣の道は
竹刀が自分の体の一部になった瞬間から
始まることはなく
雪道で転んだ瞬間に終わったという事
そう考えると、なんだか妙に
この方が、自分の人生らしく思える
あの時の一本は、なかなか良い技だった
ねえ(私の)奥さん

