ねこが語る由来

🐾助けられた猫の語り

ぼくは、あの日の冷たい水の感触を
いまでも忘れない

早春の朝
まだ空気が白く
体の芯まで冷えるころだった

気がついたとき
ぼくは堰(せき)の中を流されていた

両側はコンクリートの壁
必死に泳いで岸に近づいても
登れる場所はどこにもなかった

ぼくは鳴くこともできず
ただ、息が続く限り手足を動かしていた

その時だ

上から、人の気配がした
何度も手が伸び、枝が差し出された
でも、届かない

体は重くなり、目の前が暗くなってきた
浮いては沈み、沈んでは浮き
「もう、だめかもしれない」

そう思った瞬間

ぐっと、前足をつかまれた

最後の力でもがいていた前足が、
人の手に力強く握られた

次の瞬間、ぼくは水の外にいた

でも、体は冷え切り、息は細く
意識は遠のいていった

人はぼくを胸の中に入れて、走った
その鼓動だけが、ぼくをつなぎとめていた

あたたかい場所
シャワーの音

けれど、ぼくの体は動かなくなった
舌はだらりと出て、手足は固まり
息も止まった

🐾ここまでか

そう思ったとき

「まだだよ」

そんな声が、遠くで聞こえた気がした

あたたかい湯がかかり
胸のあたりに、やさしい衝撃が続いた

すると

冷えていた体の奥に
小さな火がともった

舌が、少し戻り
固まっていた手足が、ふっとほどけた

気がつくと、ぼくは人の腕の中で
湯に包まれていた

🐾生きている

そう思ったとき
自然と声が出た

「ニャー」

それから、ぼくは拭かれ、
あたたかい炬燵の中で眠った

首輪を見た人は
ぼくの家を探してくれた

そして、ぼくは
ちゃんと「帰る場所」へ戻ることができた

それから後は
ぼくは遠くから、そっと見ている

あの人のまわりでは
大きな幸運ではないけれど

🐾病に倒れず
🐾事故に遭わず
🐾物事が静かに収まり

そんな日々が、重なっていった

その人が新しく出会った人たちにも
同じような「何事もない幸せ」が
そっと訪れているように見えた

たぶん
命をつないだあの日の温もりは
人から人へ、静かに巡っているのだと思う

この場所は

大きな願いを叫ぶところじゃない

ただ
今日も無事だったことを
そっと喜ぶ場所

助けた命が
満たされた心が

小さな幸せとなって
静かに広がっていく・・・

ここは、そんなご縁のための猫神社

🐾ぼくは、今もここで
そつと、見守っている

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